理事長エッセイ

先生の熱意と指導力が安松幼稚園の誇り

平成18年3月
理事長 安井俊明
国語力がすべての始まり
――― 人との関わりも言葉から ―――

 卒園・進級おめでとうございます。心からお祝い申し上げます。
 先日の泉の森での唱歌童謡コンサート、年長さんやりましたね!!
 ケーブルテレビの放映のためにお世話をいただいた泉佐野市の広報の方が、「すべてに感動しました。とくに“いい日旅立ち”の時は鳥肌が立って、撮影しているテレビ局の人と、思わず顔を見合わせました。それにしても子供達の表情は、とても良かったですね。表情も指導されるんですか?」とおっしゃるので「あれは、子供達の気持ちが自然に湧き出た表情ですよ。」と応え、「そりゃそうですね」と、お互い大笑いとなりました。
 さて今回のコンサートは、2学期の生活発表会後の約2週間足らずと3学期の3日間で仕上げた舞台でした。私も5歳児の集中力と先生の指導力に脱帽です。
 歌唱指導以前に、3歳児の時からの色々な積み重ねを通して養われた集中力やるときはやる遊ぶときは遊ぶというメリハリ自分が今何をするべきかというけじめ等々……。
 そして何より嬉しいのは、園児一人一人が楽しんでいたということ、そして自分の姿に自信を持ち「舞台を観て観て」という気持ちで、自分に誇りをもつという経験をしたことです。達成感・喜び・自信等々を得て、今後の生きていく上での礎の一つを築いたと強く感じました。


 当園の子供達の特徴を一つ挙げるなら、泉佐野市の広報の方がおっしゃったように、とても元気で表情が豊かということです。
 それは、好き勝手に動き回る等の浮ついた元気さなどではなく、自分の意見・感想をしっかりと文章で話すことに裏付けされている元気さ・表情の豊かさなのです。
 それは、どういう指導から身に付いていくのでしょうか。
 一言に集約すれば、先生から子供への積極的な言葉かけと、子供の言いたい事を時間をかけてゆっくりと聞いてあげることの積み重ねから生まれてくると実感します。
 先生からの話しかけが子供達の心を開き、子供達も自然と会話のすべを身につける。すると子供達から周りの人に対して、挨拶を含め色々と話しかけ関わりを持つ事が出来、周りの人と話をするのは存外に楽しいものだと知るようになる。
 昨今、挨拶や会話が出来ない大人が多い中、当園の園児たちは、挨拶が自然に出来、会話を楽しんでいます。


具体例を挙げましょう。
★雨降りの日のことです。一人の3歳児が、「先生、今日は朝から雨やなぁ」と話しかけてきました。私は、「そうやなぁ、よう降るなぁ、本降りやなぁ」と応じると、傍にいた3歳児が、「ほんまによう降るわ」と、会話に加わりました。
 何気ない会話ですけれども、たいしたものです。3歳児の会話なんですよ!! 一昔前の6,70代の人同士がある夏の暑い日に、「今日はえらい照りですなぁ」「ほんまに暑おますなぁ」という茶飲み友達のような会話そのものなんです……ビックリです。
★ある行事の日の朝、多くの先生でホールに椅子並べをしました。その後、私が5歳児のクラスに入っていくと、「今日は、朝早くから先生ら勢揃いやなぁ」と話しかけてきました。その後、会話のキャッチボールがあったのはいうまでもありません。
★ある朝のことです。4歳児が「先生、髪の毛、切ったの?」と、私に話しかけてきました。たまたまその日は朝にシャワーを浴びて登園したので、髪がさわやかだったのでしょう。そこで私は「……」と応じ、話に花が咲きました。
★2歳児の芽生え教室のあった日のことです。5歳児と、芽生えのお友達・お母さんがとても親しそうに話をしています。私が「あなた達、知り合いだったの?」と聞くと、芽生えのお母さんが、「いえ初めてなんです。このお子さんが、うちの子供に、名前なんて言うのとか、色々と話しかけてくれたんで、話しが弾んでいたんです」とのことでした。
★6月に園内音楽会の模様がケーブルテレビで放映されましたが、その下準備で来られた方のお話です。予行で歌っている5歳児の顔を見て、「あぁ、あの子です。うちの子供の体調が悪くお医者さんに行った時、待合室で色々と話しかけてくれて励ましてくれました。どこの幼稚園?と聞いたら、安松と言っていました。本当に嬉しかったです」……さーすがぁ!!
★外からも、年に5,6回は、電話がかかってきます。電話の方のお子さんが、公園の砂場で安松幼稚園の子供によく遊んでもらって嬉しかったこととか、どこかのマンションのエレベーターで「おばちゃん、何階で降りるの」と聞いてくれてボタンを押してくれたこと等々。このような話が本当に溢れています。 


 当園では、すべての先生が子供達に話しかけていくこと、そしてどんな些細なことでも子供の言いたい事をじっくりと聞いてあげることを、とても大切にしています。挨拶が出来、会話を楽しみ、周りの人と関われる子供に育つには、やはり先生からの働きかけが根底にあります。先ほどの3歳児の“日和”の話をはじめとした多くの例は、一人の園児が帰宅するまでに、多くの会話を先生や友達ともつことが出来る環境の大切さを証明するものです。
 園長先生が玄関から部屋までたどり着くのに、子供達との会話で10分ぐらいかかることが、しばしばあります。
私も部屋から芝生の運動場に行くまでの3,40メートルの間に、14,5人の子供達との会話をくぐり抜けなければなりません。とても嬉しいことです。


 さて2月の中ごろ、園への送り迎えの途中に、2人の園児が友達のお母さんに刺し殺されるという悲惨な事件がありました。
新聞には、「誰を信じればいいのか…」「ショックである…」「侵入者には対応できるが、この事件には対処の仕様がない…」等の記事が溢れていました。
 事件の夕刻、朝日新聞から園に取材がありました。
「この事件をどう捉えますか」の問いに対して、私は、「本当に悲しい事件ですが、昨今のように、人と人の関わりが薄くなり、会話の出来ない人が増えた社会においては、この種の事件が起きる可能性は常にあり、以前にも同種の事件が数件起こっています。」と応えました。
「幼稚園としての対策は?」の問に対して、「子供達やお母さん方が、人とどう関わっていくかの力を高めることです。具体的には、当園では先生方が、普段から子供一人一人に積極的に声をかけるように心がけている。そうすると、子供も自然と言葉数が増え会話が出来るようになる。それがお母さんにも及んで、お母さんの言葉数も増え、子供を中心にして、お母さん同士の会話に発展し、和気あいあいとした雰囲気が生まれる。このような事件を防ぐには、こうした人間関係を保護者間や地域に広げていくことが大切であり、それしか根本的な解決策はありません。」と応えました。
そのやり取りの一部が朝刊に採り上げられ、読まれた方もおありだと思います。


 3学期に二つの大学から研修生が来ています。彼女達の園児についての感想は、「元気で人懐っこく、コミュニケーション能力の高さに感心しました。」ということでした。
卒園・進級にあたり、当園の園児たちの周りの人との関わる力に脱帽するとともに、個人にとっても社会や国の在りようにとっても、国語力こそがすべての基礎となるということを改めて強く感じました。
 “いい日旅立ち”にあたり、皆さんのご多幸を念じます。

(安松幼稚園新聞第50号より)