理事長エッセイ

先生の熱意と指導力が安松幼稚園の誇り

平成27年3月17日
理事長 安井俊明
年少3歳児 全クラスで給食完食
――― これはすごいことなんですよ ―――

 春の訪れを感じつつも肌寒さが残る中、本日、卒園・進級の日を迎えました。
卒園・進級おめでとうございます。
●この3学期、とても嬉しいことがありました。
年少3クラス(104名在籍)において、給食の完食があったのです。またあるクラスにおいては、完食が何回か続いています。
食の細い子、子供のその日の体調、野菜などの好き嫌いの問題等々、3歳児で全員が完食することは、奇跡に近いのです。そこまでもっていくには、各教室で色々なドラマが展開されています。
 当園の食事指導について少し触れてみます。

①まずは食事を楽しみたい

時には音楽を聞きながら、昨日遊びに行ったことや運動会や遠足の話題等、騒がしくならない程度に、先生やお友達と会話をしながら楽しくいただきます。
まず楽しく!!……これが第一です。

②次に好き嫌いを少なくし、出されたものを残さずに食べる

しかし好き嫌いと食事量は、個人差がとても大きいのです。お母さんにとっても頭の痛い問題だと思います。
幼稚園では、時間をかけて少しずつ好き嫌いを少なくし、出されたものを残さずに食べる方向にもっていきます。
子供の好き嫌いの度合いによって、また食の細さの度合いに応じて、先生が子供のお箸で分けて、「今日は、ここまでいただきましょう。先生も応援しますよ」と励ましながら、徐々に食べることが出来るようにしていきます。
 そして少しでも嫌いなものを食べた時や、食の細い子供が多めに食した時は、「偉かったねぇ。よく頑張りましたよ」と声かけをし、大いに褒めます。お友達も、「すごい、すごい」と、手をたたいたりして、共に喜びます。

 子供は先生に見てほしい、何か言ってほしいという気持ちがとても強いので、「先生、見て見て」と、自分の食べた事を見てもらおうと声をかけてきます。その時です。まさにその時なのです!! その子供に対して先生がどんな言葉を返すかで、全てが決まります。それらの出来事は、一緒に食事しているお友達にも次から次と伝染して、「私も苦手なものを食べたところを先生に見てもらいたい」とばかりに、子供からの声かけが続き、またそれに対して先生が褒める褒める。子供の呼び声と、それに返す先生の褒め言葉が次々と続き、まるでクラス中が合唱のようになります。

 それでは、うさぎ組の春田さんのお手紙の一節を紹介しましょう。

「昨日頂いた全員完食の写真を見て、 すごーいっ!! って声を出してしまいました。
盟は、フルーツと根菜が苦手ですが、先生がほめてくれるから頑張って食べると言っています。どうしても食べられないものもあるはずなので、残す日もあるんだろうなと思っています。
身体が大きいので食欲旺盛なのですが、この頃はマラソンのおかげでしょうか、益々食べる量が増えています。
 たくさん運動して美味しくいただく。素晴らしいです!!
これでもかってほど褒めて下さり、こうやって評価して子供に伝えて下さることが、自信とやる気につながっているんだなって、つくづく感じます。
うさぎ組さん、誇らしくてとてもいい写真でした、早速飾りました。」

こういう風にお友達と一緒に食事をすることによって、食事に対する意欲が高まり、ある程度の期間があれば好き嫌いも少なくなり、また食の細い子供も残さずに食べることが出来るようになっていきます。
しかしながらそこに至るまでには、先生の子供のやる気を起こす褒め言葉・指導が不可欠なのです。
 しかしもっとも気をつけなくてはならないことは、行き過ぎた指導によって食事の楽しみを奪わないことです。食事は、まずは楽しくを忘れてはなりません。

 奥本先生の隣は、給食会社の方です。一緒に写真に入って頂いて共に喜び、園からの感謝の気持ちを、お伝えました。写真のA3のコピーもお渡ししたところ、後刻、「事務所に掲示し、作業の人も含め、自分の仕事に誇りと喜びが湧いてきました。こんな経験は初めてです」とのお礼の電話がありました。
とても温かい気持ちになりました。

③お箸を上手に扱えるという技術・作法以外に、食事を出来る幸せを感じさせたい

食事時の挨拶や食事をいただける幸せについては、年少はまず形から、年中・年長と進むにつれて、その意味を深めて説明していきます。

最初の食事指導では、「食事前には、いただきます。
食べた後には、ごちそうさまと言うのよ」という形から入っていきますが、そのうち、3歳児であっても次のような心の指導も入ってきます。
 “いただきます”とは単に私がこれから食事をしますよ、食べますよという意味以外に、「お魚や牛などの命をこの私がいただくことによって私の体が元気になり、そして大きくなっていくのですよ」という意味があることを、少しずつ伝えていきます。
 大人の方になら、「私たち人間は、周りの色々なものの命を奪うことによって、自分の命を保っています。言い方を変えるなら、周りの動植物の命を奪わなくては、生きていけない存在が人間なのです。この事実に目を向ける時、自分を含めた全ての生き物の命を大切にし、もったいない・ありがたいという感謝する心が自然と芽生えるのではないでしょうか」との表現になるでしょう。

 アフリカなどの飢餓の話、震災や災害時には食べることさえ困難なことなどを、園児たちが理解できる形に噛み砕いて話します。
すると園児の方から、「食べ物、残したらあかんなぁ」とか、「好き嫌い言うたらあかんなぁ」「僕、今日は残さんとみんな食べるわ」などの言葉が自然に返ってきます。
 こういう話に触れさせることにより、3歳児でさえも心を震わせ、今回の完食につながっていく大きな要因になっているのです。

 以上のように、安松幼稚園での食事指導は、好き嫌いなく色々なものを食するという以外に、私たちの周りにある命そのものの尊さに目覚め、その結果自分の命も大切にするという、人間が生きるという意味そのものに触れていくことを大切にしています。
 家庭でどのようにお話しされ、また食事時の作法をなされているかは、子供の育ちにとても重要だと思います。
当園では、このような情感豊かな心を子供に育てることこそ食事指導の原点と考えています。
●給食会社の方が、安松幼稚園の子供達の運動場での自由に遊んでいる様子をご覧になって、「他の園より、動きが速く機敏で、多くの子供達が体を動かして遊んでいる。他園では、ここまで遊んでいないし、外で遊ぶ姿をあまり見ない。残飯の量が、安松幼稚園が他園に比べて圧倒的に少ない理由が分かりました」と言われたことがあります。本当に、年長児の末広公園での持久走の日など、あっという間に完食です。
学年が上がるにつれ、とくに年長児の食事量がとても多くなるので、園で年長児用の大きなお弁当箱を購入し、給食会社に渡しています。年長児は、年少・年中児より、おにぎりが4個から6個に増えます。また年中児でも食事量の多い子供には、年長児用の給食を用意しています。
 その給食会社の他の全ての園では、3・4・5歳児ともに同じ量だそうで、子供の発達段階を考えるとき、私には、3・4・5歳児が同じ量の給食で間に合うとは、信じられません。それでも他園では、年長児でも多く残すそうです。

安松幼稚園の子供達はとても活発です。それは先生の本気が子供達に伝わり、先生方もどんな些細な事も子供の心に浸みるようにたくさん褒める。(先程の春田さんの言葉を借りれば、これでもかってほど褒めて下さる)これが子供の積極性を育て、やる気を引き出すからだと強く感じます。
 子供達はしっかりと運動しお腹をすかせ、また嫌いなものを少しでも食べることができれば、先生に褒めてもらい友達の拍手をもらえる。こういう環境の中で育まれた積極性・やる気が、完食につながったと言えます。
 安松幼稚園では、教育(educe)の神髄は「子供に教え込む」のではなく、「子供から色々な資質を引き出す」ことにあると考えています。この食事指導においてもその神髄が遺憾なく発揮され、3歳児全クラスでの完食につながっていると、とても嬉しく思っています。
子供達の健やかな成長を願いつつ、本稿を終わりとします。皆さまのご多幸を念じます。