理事長エッセイ

先生の熱意と指導力が安松幼稚園の誇り

平成24年3月16日
理事長 安井俊明
教育とは発達段階に応じた負荷をかけること

【Ⅲ】 特別支援教育との関わり

特別支援教育について記す前に、【Ⅱ】を要約しておきましょう。

教育とは、子供一人一人の発達段階にあった負荷をかけること(次の4点に留意)

(1)

先生と子供の信頼関係があってのこと

(2)

それぞれの子供の発達段階にあった負荷であること

(3)

先生の根気強い指導が不可欠

(4)

自分の目標・頑張りの成果が具体的に目に見える形で示されることが重要で、
子供のやる気を引き出すことが前提となる

【Ⅲ】の稿の趣旨は、「特別支援教育においても、障碍の特性をよく把握した上で、発達段階にあった負荷をかけることは重要である」にあります。
それは、例えば広汎性発達障碍(PDD)においても同様です。ただし、その障碍の特性を理解し配慮した上でという前提を忘れてはなりません。←重要

 次のお母さんからのお手紙は、現在の日本の障碍児教育の問題点を鋭く指摘されています。
「……広汎性発達障碍には、失敗した時や負けた時ついて行けない時に極端な折れやすさがあり、一度上手くいかないと二度と挑戦しなくなったりする子も多く、自分はダメだと心に深く傷を負ったり,挑戦する意欲を失ったり、逃避・反発・自傷・多動がひどくなったり、自分でも訳が分からなくて暴れる子の話も多く聞きます。
 また反対にそれを避けるために、出来ないからと甘やかしたり自由にさせるところが多いわけですが、どんどん、けじめや良い悪いの判断もつかなくなり、他の子との関わりよりも独りよがりの遊びに没頭して、より社会性や適応力を失っているように思います。……少し略……私の知り合いの子供は、上手く出来ない自分にも、先生やお友達のことも不信になり……少し略……安松幼稚園では、子供と先生との間にしっかりと信頼関係が出来ていて、本当にうらやましいとおっしゃっておりました。」

 障碍の特性に配慮しつつ、わがままを容認し甘やかしにならないように負荷をかけていかねば、お手紙の下線部のようになりかねないのです。そういう見極めの眼をもち勇気をもって実践することはとても重要であり、そしてそのためには、(1)先生と子供の信頼関係 と (3)先生の根気強い指導 が何にもまして必要になってきます。



 さて安松幼稚園では、全ての子供に対して次2点を大切にしています。
●子供には、言葉のシャワー(双方向の会話)を浴びせる
●それぞれの子供の発達段階にあった負荷をかける


まず●言葉のシャワーについて
 卒園時に、ある保護者から頂いた手紙の一部をまずお読み下さい。



……少し略……
 先生方が子供扱いせず「一人の人間」として話しかける事に驚き、-何より驚いたのは先生方がクラスを超えて声かけをして下さるので、-毎日何かしら娘の成長を感じられた事でした。
先生の声かけ(我が家では『言葉のシャワー』と呼んでいました)-があったおかげで、娘の伸びようとする力が加速され、-自分で考えて動いてみる事が次々に増えていったのだと思います。
……以下 略    2006.3.17


 

「人と人との触れ合いや人の成長は、まずは会話から」ということで、安松幼稚園においては昭和24年の設立時から、全ての先生が子供達にクラスを超えて多く語りかけてきました。そのことを見抜かれたある保護者が、上記のような言葉を贈ってくれたのです。
安松幼稚園では、先生と子供との言葉の交流が全ての始まり・基礎になると考えています。「言葉のシャワー(双方向の会話)はすべての子供に必要である」という真理は、とくに言葉の発達に問題のある子供や何らかの障碍がある子供にとってはより重要なのです。

次に●発達段階にあった負荷をかけるについて
 これは、上記【Ⅱ】で全て述べていますが、ここでは何らかの障碍をもった子供に対しても、この考え方は真理であるということを述べたく思います。
 当園では、広汎性発達障碍を含め色々な障碍をもつ園児を預かってきました。
広汎性発達障碍の場合、約半年に1回くらいの割で専門のドクターの診察を受けるのですが、「安松幼稚園の子供達は、他の園や所の子供達が1年以上かかって獲得していく能力を、半年で獲得していく。2倍以上の早さで発達していくのには、どういうことをなさっているのですか?」と聞かれたことがあります。
そこで、上記の2点
●子供には、言葉のシャワー(双方向の会話)を浴びせる
●それぞれの発達段階にあった負荷をかける  と応えました。

 あるお母さんから、「関わりのあった施設においては、負荷をかけるということを躊躇する傾向にあって、そのことが障碍児の回復を遅らせているように思えます。」との話・相談がありました。
・子供の話をしっかりと聞く
・子供のよいところを伸ばす  
を方針としている施設が結構あるようです。
しかし私に言わせれば、こんなのは当たり前の事で、わざわざ述べる必要はありません。
子供のよいところを伸ばすのが方針なんて言われると、それ以外の点は指導しても無理と決めつけて、はじめから指導を放棄しているようにも聞こえます。
 またある保護者から、「ある園で廊下を走っている自分の子供を注意したら、園の先生から『ストレスがかかるから注意をしたらいけない』と言われました」に類する話も少なからず聞きます。
 すなわち 注意をしない→指導をしない→最初から指導をあきらめている  の如く感じることもあります。


 もっとも、例えば広汎性発達障碍の子供に対しては、それに適した指導方法があります。その時の状態・年齢・発達段階に応じて色々な接し方はとても重要です。聞く事が苦手な子供に対しては,ある時期、絵に描いて視覚に訴えて次の行動を指示することにより、理解が容易になりパニックを避けることにつながるでしょう。また急な予定の変更への対応は苦手なので、前もって次の行動を伝えておくことも有効でしょう。味覚や音の問題には気長に対処することが必要です。今言いたいのは、ある障碍をもつ子供に対しても、障碍の特性には対応しながらも、必要な負荷はかけなくてはいけない、少しずつ、根気よく、非常に根気よく指導していきたいということです。
 苦手な項目


例えばお箸を持って食べる。最初はこぼしてもいい、褒めて褒めて励まして、まずお箸を持ちたいという気持ちを引き出す根気強さが必要

椅子になかなか座ることの出来ない子供に対しても、最初は10秒でも30秒でも1分でも2分でも座るという負荷をかけていく。そして瞬間でも座った時は、褒めて励まして根気強くやっていくのです。

根気強く先生が対応することで、その能力を身に付けていくのだということです。
初めの1,2回は出来なくても、3回目には少しは出来るようになる。その時に大いに褒める。嬉しくなって,またやってみる。こういう単純な繰り返しをすることによって、無理だろうと思われていた行動・生活・言語などの能力を獲得していくのです。
 障碍のレベルにもより結果の現れ方に違いはありますが、必ず何かしらの進歩はあります。その時の留意点は、【Ⅱ】の(1)~(4)で述べた、信頼関係が不可欠で、発達段階にあった負荷であること,そして先生の愛情からの根気強い指導です。

ちょっとまとまりのない稿になってしまいました。
短く記したいという思いから、誤解される表現になったことを恐れます。
述べたかった概要は、障碍の特性を理解し対応するという前提の下で、
・障碍児にも、その発達段階にあった負荷をかけるということを恐れるな
・腫れ物に触るような指導は、のびを遅くする場合がある
ということです。


 皆さんと手を携えて、少しでも有効な特別支援教育に向き合っていきたいと考えています。