理事長エッセイ

先生の熱意と指導力が安松幼稚園の誇り

平成24年3月16日
理事長 安井俊明
教育とは発達段階に応じた負荷をかけること

【Ⅱ】 教育とは、個々人の発達段階にあった負荷をかけること

 次に、安松幼稚園の泉の森ホールコンサートの後、前泉佐野市教育委員長の岡村親一郎先生から頂いたメール(Wed,28Jan2009)を紹介します。

 保護者(特に祖父母ら)が大変感動されていました。この気持ちをその時だけに終わらせず、子供達を通して家庭をも地域をも巻き込んだ「強い心と身体」へと意識改革してくれたらと思います。
 役柄、曾て文部省の健康啓発関係の委員会に数年間でていましたが、「強い心と体を作る」と言う一方で、文部省の役人は子供を弱くする方向ばかり向いていて、会議が“白けた”ことが再三だったのを思い出します。人を育てるという意味が全く分かっていません。
 安松幼稚園の「教育とは、子供の周りから困難や障害を取り除くことではなくて、それらを乗り越えていく力をつけることである」は、将に名言で教育の本質を突いています。


 

岡村先生のメールにありますように、安松幼稚園では、「教育とは、子供の周りから困難や障害を取り除くのではなく、それらを乗り越えていく力を育むことである」と考えています。
 具体的には、先生と子供が本気でぶつかり合い、今取り組んでいる物事を創造していく過程が大切であると考えます。本気でぶつかり合う過程において、先生と子供との信頼関係も築かれ、困難や障害を乗り越えていく能力や強い心が身に付いていきます。
 表現を変えると、「教育の根本は、子供達に、それぞれの発達段階にあった負荷をかけること」にあるのです。幼児教育から義務教育にかけては、負荷をかけない教育はあり得ないのです。(この稿での教育は、幼児教育から義務教育を意味しています。大学などの専門教育になると、自分で研究項目を探し問題点を設定することでしょう。ある意味、自分で自分に負荷をかけると言えないこともありませんが……)
 負荷をかけることによって、子供がどのように変わっていくかについて少し具体的に述べてみましょう。

●安松幼稚園では、12月の初めに生活発表会があります。
 その内容は、遊戯・オペレッタ・合唱・言語発表などですが、10月中旬の運動会後11月頃から、練習が始まります。毎日少しずつ、約20人の先生が担当します。
11月ともなると、ほとんどの子供が安松魂を身に付けている(付けつつある)のですが、中には(300人のうち10人前後)、その練習過程で少し怯む場面もあります。そんな時です。大切なのは、先生と子供との真剣な関わり・ぶつかり合いです。先生の心からの語りかけ、そして時には適切な気合い、そして少しでも出来たときは間髪を入れずしっかりと誉める、等々を繰り返しているうちに、先生と子供との間にはしっかりとした信頼関係が築かれます。
そうこうするうちに、「私のお稽古は何番目?」と質問が出て、やる気満々になり、意欲が芽生え、積極性が育ってきます。本当に楽しみながら練習するようになるのです。
 発表会の練習に2階に行くとき、先生室の前を通る時にはニコニコ笑いながら、「行ってきます」と、手を振って通ります。「行ってらっしゃい。しっかりね」と応えます。
練習が終わって帰って来たときは、子供達からの「ただいま」「面白かったわ」に対しては「お帰りなさい。よかったね。頑張ったね。」の言葉かけ。
 こういうことを繰り返しているうちに、最初はちょっと怯んだ子供も含んで全員が、「お母さん、見て見て」という自信満々の顔つきとなり、本番当日もニコニコと楽しみながら演じるようになります。

 

まさにこういう過程を通して、先生との信頼関係・負荷を超えたときの喜び・物事に対する積極性を得るのです。
これこそ今後の人生に対する骨太な所を育てているわけで、一生の宝になります。

●縄跳び 末広公園での持久走
 子供達は年中の運動会後に、縄跳びをプレゼントされます。
それから先生は大忙しとなります。子供達から「数えて,数えて」のコールです。
最初は、まえ跳び20回跳ぶと赤リボンをひとつ縄跳びに結びます。40回跳ぶともう一つ赤リボン、その後は うしろ跳び、片足跳び、あや跳び、うしろあや跳び……と、ウルトラCの世界に挑戦し、私や多くの先生が踏み込めない技に進んでいきます。
個々の園児にとって、縄跳びについている様々な色のリボンが勲章であり誇りなのです。
「次はうしろ跳びで、緑色のリボンを取ろう」と、子供達は自分で目標を決め物事に挑戦していくようになります。
当然、個々人によりリボンのつく早さは異なりますが、たくさんのリボンをつけている子供に対しては「すごいなぁ」という眼差しで見、また初めて一つリボンをもらったという子供に対しては手をたたきながら「よかったね」と全員で喜びます。みんなで頑張るから、新しい力が引き出されます。
 末広公園の持久走でも、1周走る毎にゴム輪をもらい腕につけて走ります。
リボンにしてもゴム輪にしても、自分の頑張りの成果が目に見えて解るので、なにくそっとばかりに、物事に挑戦するという積極性が養われていきます。
 これらの強い心は、自分の心と体に負荷をかけられ、それを乗り越えていく経験なくしては育まれません。これこそが教育の原点です。
負荷をかける過程における注意を、4点挙げておきます。

(1)

先生が一人一人の子供をきめ細かく観察した上での発達段階にあった負荷であること

(2)

先生と子供の真剣な関わりの中で生れる信頼関係があってのこと

(3)

先生の根気強い指導が不可欠

(4)

負荷を乗り越えていく過程において、自分の目標・頑張りの成果が具体的に目に見える形で示されることが重要で、子供のやる気を引き出すことが前提となる


 さて昨今お母さんの中で、「自由にのびのびと育てたい」と言われる方が多くいますが、時に、単なる気楽 と 自由にのびのび を混同されている場合も多いようです。また子供が自分の思い通り好き勝手に行動することを、自由にのびのびと と

 

“怖いものなし”の子供たち
……「伸び伸び」ということが教育の第一義となった。
 ある指導主事の授業見学記によれば、某小学校の研究授業で、先生がこれから作文を書いてもらうと言ったところ、子供達はいやだ、いやだと叫び出し、先生が「ではやめよう」と譲歩すると、やったぁと指をVの字にして歓声をあげたという。しかもこの授業の講評として、同僚先生は口々に「こどもたちが伸び伸びしていて、よかった」と言ったと報告されている(雑誌「学校経営」3月号)。……略……

東大教授 西義之   産経新聞より引用


 安松幼稚園では、上記(1)~(4)の下、負荷を乗り越える経験から得られる達成感・喜び・やる気こそ、人としての本物の自由にのびのびであると確信します。そして負荷を超えて何かをやり遂げた子供達は、周りにも優しくなり、自分の思いをはっきりと発言する等の積極性も養われてきます。
 それは「子供の自主性に任せる」という耳当たりのよい言葉に酔いながらの支援活動すなわち子供・児童中心主義からは生まれてきません。
 繰り返しますが、骨太な子供の育成を目指すなら、負荷をかけない教育はあり得ないのです。