理事長エッセイ

先生の熱意と指導力が安松幼稚園の誇り

平成23年3月14日
理事長 安井俊明
幼 保 一 体 化 に つ い て
    

【Ⅰ】現在、幼保一体化を目指した「子ども子育て新システム」が、国をあげて議論され、平成25年スタートを目指しています。一方内閣府は、10年かけての統合という案を、この11月1日に出しました。
ところが不思議なことに、幼児期の子供にとってどのような環境・教育が大切かという議論がなく、待機児童解消・就労支援そして社会の経済効率の観点が全面(前面)に出ています。それもそのはず、「子ども子育て新システム」の議論の直近のきっかけは、平成21年12月の緊急経済対策の中に、「幼保一体化を含め、新たな次世代育成支援のための包括的、一元的な制度の構築」が織り込まれたことにあります。子供の環境・教育の問題が、緊急経済対策の観点から始まっているのです。
 この緊急経済対策を受けて、平成22年1月、新内閣により、「子ども子育てヴィジョン」が発表され、特に保育所の待機児童解消に、既存の社会資源を最大限に有効活用することで、サービスの拡充を図る観点から【幼保一体化】が明確に位置付けられました。
以上の事を頭に入れられた上で、以下お読み下さい。

【Ⅱ】あるお母さんから、幼保一体化についての感想・意見をお手紙で頂きましたので、先ずはそれをお読み下さい。(お母さんのお便りにも掲載しています)


もし幼保一体化になっても
安松幼稚園の教育方針やスタイルは貫き通して頂きたいという思いでいっぱい


年少りす組 年長桃組 手束江美

いつもお世話になっております。
昨日、幼稚園・保育園一体化の事で電話させて頂きました。
保育園の待機児童を減らし、女性が働ける様になどと、幼保一体化。
一体化され、どういった内容になるのか説明されないままなのでしょうか?
(理事長注:全くその通りです。現時点では、具体的な内容も提示されないまま、幼児期の子供に対する教育についての考察が全くないままに、国は、待機児童解消・就労支援の観点そして経済効率の観点のみから幼保一体化の方向に突っ走っています)
幼稚園の先生と保育園の保育士さんとでは資格も違うと思うのですが、どうなるのでしょうか?
保育園でも色々な事を取り入れて教育されているところも沢山あると思います。
どちらも預ける側や預かる側にメリット・デメリットがあると思うので、一概にどちらが良いと言うつもりはありませんが、私が一番不安なのは、安松幼稚園のスタイルが失われないかという事です。
 保育時間が長くなると先生方の負担も増す事でしょうし、保育園と変わらなくなるのではないか……という心配等です。
 もし一体化になっても、安松幼稚園の教育方針やスタイルは貫き通して頂きたいという思いでいっぱいです。
もし署名活動があれば、お声をかけて頂きたく思います。(理事長注:本当にありがたいことです。)

 小さい頃から学ぶべき事がある、小さいうちだからこそ身につく事がある。
そう思い、自分が通っていた幼稚園という事もあり、安松幼稚園に決めました。
入園の相談でかけた電話越しに、園長先生のお声をお聞きして、懐かしさで胸がいっぱいになりました。
授業参観・運動会・生活発表会で涙し、興奮し、自分がなくしていた感情を子供に取り戻してもらった気がします。
安松幼稚園に入れてよかった!!
こんな素敵な幼稚園を守っていかなければと思います。


 私も学生時代、優秀な生徒ではありませんでしたが、子をもつ親になり、子供やその次の代までもの心配をするようになりました。
もっと日本の教育を何とかして欲しいと願うばかりです。
まだまだ先の話で、気が早いかもしれません。
こんなに熱くなって可笑しいかもしれませんが、いずれ下の子もお世話になりますので、先日電話させて頂きました。

 話は変わりますが、先日の理事長先生の教育論、とても感激しました。そして論だけではなく、安松幼稚園では実践されています。(理事長注:授業参観後に、2回にわたって講演しました)
私は今の教育はおかしいと思います。
他国は学力向上を図る中、ゆとり教育を取り入れる日本
道徳の授業を軽視し、人として学ばなければならない事を教えない学校
主役ばかりの学芸会
順位をつけない運動会
人を殺しても、若いからという理由で守られる少年法
“君が代”を歌うなと言う愛国心のなさ
全てにおいて疑問です。
他国は、学校や地域社会などで愛国心を自然と身につけるのに、どうして日本は……と、不思議に思っていました。
資源がない日本は殆どの物を輸入に頼っている。
「日本人は優秀で、武士の心をもっている」と他国の人が言っているのに、現実は学力の低下、犯罪の増加……。
こんな世の中でいいのでしょうか……
私は子供達に、この国に生まれた事は幸せな事だとよく言っています。
ご飯を食べられる事や、きれいな水を飲める喜び、日本はとても恵まれているという事。
そうあってほしいという願いも込めて。
私達 親が大人がしっかり教えていかないと、どんどん子供がダメになっていく気がします……

また理事長先生のお話、お聞かせ頂きたく思います。
お忙しい中、手紙ご覧になって頂けて光栄です。
ありがとうございます。     かしこ

【Ⅲ】篤い想いをありがとうございました。
現時点においては、具体的な内容を提示しないまま、幼児期の子供の望ましい環境・教育についての考察が全くないままに、国は、大人の都合からの待機児童解消・就労支援の観点そして経済効率の観点から幼保一体化の方向に突っ走っています。

お手紙は、次の2点に触れられていたと思います。

(1)

幼保一体化で、安松幼稚園の現在の教育のレベルを保てるのでしょうか?是非、今の安松幼稚園の教育を続けてほしい。

(2)

小さいうちだからこそ学ぶべき事があり身につく事がある。私達親や大人は、しっかりと日本の良さも含め、人としての有り様を子供達に伝えていきたい。


(1)まず幼保一体化について

 全体像がまだ見えていないので何とも言えませんが、国がどのレベルの法(規則)を施行し、府・市の柔軟な対応がどれだけ可能であるかにかかっていると思われます。
しかし現時点における、国の「子ども子育て新システム」の内容は、

すべての子どもへの良質な成育環境の保障

出産、子育て、就労の希望が叶う社会

仕事と家庭の両立支援で、女性の就業促進で活力ある社会

住民の多様なニーズに応えるサービスの実現

の方向のみを向いています。


つまり“子供を多様な形態で預かる”に関する記述ばかりで、教育への言及が全くといっていいほどありません。
 幼稚園が学校教育法第1章総則の第1条において、「この法律で、学校とは、幼稚園・小学校・中学校……とする」とあるように、幼稚園が学校であり教育機関であるという観点が完全に無視されています。
 社会の構造の変化から、多様な預かり形態が必要なのは理解できますが、それと共に、良質な幼児教育の重要性もそれに劣らず大切だと考えます。これらが両立できるシステムを考えなければなりません。待機児童解消と幼保一体化は別の種類の問題です。

 安松幼稚園が大切にしているものに、次の2点があります。

放課後の毎日のミーティング(職員会議)
 すべての先生が参加し、個々の園児の情報交換・明日の教材の組み立て(この場合は学年に分かれる)・中長期の教育課程についての研究 等について、毎日2時間前後もたれています。そういうことを通して、すべての先生でもって個々一人一人の子供を見守るきめ細かな教育が可能となります。
 もちろん時には失敗もし反省もしながらの毎日ですが、そこでの率直な話し合いを通して、先生として人としての在り様についても大きな背骨が育っていきます。

年に20回を超える研究授業と風通しのよい反省会
  年に20回を超える研究授業と風通しの良い反省会は、先生の力量を高めるに大きな役割を果たしています。
 (H.P. 平成20年度学校評価:園児の情報交換 & 先生の研修 参照)

以上の様に、園児が帰ってからの毎日のミーティングと年間を通じての研究授業が、先生の質と子供の発達段階にあった教育内容の設定に大きな役割を果たし、保護者の方からも圧倒的な支持を受けています。
(H.P. 平成21年度学校評価:全家庭によるアンケート参照)
 幼保一体化で、長時間の預かりや多様な形態の預かりを義務づけられた場合、上記のような全員の先生による毎日の情報交換や研修の時間を確保できるのか、出来なければ教育の現在の質を保つ事が出来ない等々につき、日本から幼児期の教育が消え去るのではないかという危惧を抱いています。

(2)第2点について
  手束さんの仰る通りです。ここではコメントを略しますが、お母さんからのお便り  H.P. H22.7 教育そのものについて考える「教育は型・基本が大切」をご覧下さい。

【Ⅳ】これで文を終わろうと思っていましたが、2010.11.3 付けの産経抄に幼保一体化についての記事が出ていましたので、引用します。

■産経抄(2010.11.3の朝刊)■

 霜月に入ったとたんに、ロシアの大統領が頼みもしないのに国後島にやってきた。きのう前原誠司外相は、駐露大使を一時帰国させると発表し、小紙の編集局もてんやわんやだったが、「柳腰内閣」としては上出来だ。口先だけの抗議で済ませてしまうなら管直人政権は年を越せないだろう ▼北方領土や尖閣問題の陰に隠れてしまったが、上出来どころかとんでもない案が政府から出された。10年かけて幼稚園と保育所を統合し、就学前児童の教育や保育を「こども園」に一本化しようという案を内閣府が示したのだ
 ▼増え続けている保育所に入りたくても入れない待機児童を解消するための切り札というが、なんとも乱暴な案である。「幼保一体化」という美名のもと、日本にできてから130 年以上もの歴史がある幼稚園が名実ともになくなってしまいかねない ▼子供を保育所と幼稚園に通わせた小欄の経験からいえば、保育所には保育所の、幼稚園には幼稚園の良さと欠点がある。統合すれば、子供を長時間預かってくれる保育所の良さと幼稚園の教育水準の高さが組み合わさってより良くなるという発想は甘すぎる ▼幼稚園の約6割は私立だ。「こども園」に転換するためには、先生を増やし、建物を増築し、調理室を新築しなければならない。設備投資できるお金がふんだんにある園は数えるほどで、教育の質も下がるだろう ▼「こども園」には、子供は親ではなく、社会が育てるというかつての社会主義国のにおいがする。首相が今やるべきことは、待機児童をゼロにする対策で、多様な幼児教育を妨げることではない。拙速な決断で後世に禍根を残すよりは、何もしない方がまだましである。

上記産経抄は、物事の本質を鋭く指摘しています。
私も蛇足ながら最後に問題点を整理しておきます。

(a)

子供の立場から、どういう環境・教育が幼児期に大切かという観点が全くなく、 待機児童解消・就労支援そして経済効率という大人の都合からの発想である。

(b)

待機児童の解消や多様な預かり保育の形態のために何らかの施策を講じる必要があるとして、一方、子供の立場に立つ時、良質な幼児教育すなわち幼稚園(名前がこども園になったとしても)の教育レベルをどのようにすれば維持できるかという視点は、施策策定に際して欠かすことはできないと強く主張したい。

(c)

現在国(内閣府)が検討している幼保一体化は、幼稚園の保育所化の色彩が強く 、幼稚園解体を目指すものである。産経抄の「教育の質も下がる」という主張以上に、3・4・5歳児の幼児教育の崩壊に繋がり、小学校の学級崩壊を助長する危険性がある。
安松幼稚園は、年に20回を超える研究授業と放課後の風通しのよい反省会、そして毎日の子供に関する情報交換や研修の時間が、先生のレベルと教育の質の向上に直結している。
多様なそして長時間の預かり保育を義務付けられた場合、そういう研修に時間を割くことは非常に困難になるだろうということは容易に想像できる。
教育の質の低下は避けられないだろう。

具体例:
 昨日、幼稚園を認定子ども園(幼保)に変更している方から伺った話です。
長時間の預かりの必要性から、すべての先生が一堂に会して話し合うのは、月に1回で、それも夜7時からとのことでした。長時間預かりなので、一日のうちに保育士のローテーションがあり、平常の連絡はメモなどの記録での連絡で工夫されているそうですが……
もちろん週に1回の全体の会議をもっているところもおありでしょうが、幼保一体化による多様な保育に追われる時、上記の様な方向に進むのは、容易に想像できる ことです。(中学や高校では、2週に1回の職員会議が大多数ですが、幼児教育はそれと同一比較はできません。)

(d)

保育所の希望者が増大している中で、幼稚園教育を希望する家庭も厳然として存在している。産経抄が指摘しているように、首相が今やるべきことは、待機児童をゼロにする対策であり、多様な幼児教育を妨げることではない。これを混同してはならない。

待機児童は大都市部に偏在しており、その解消のために、全国一律に幼保一体化を推し進めている。地方分権との観点とも絡み、産経抄が主張されているように多様なる教育機関の存在という柔軟性を求めたい。

待機児童は大都市部に偏在しており、その解消のために、全国一律に幼保一体化を推し進めている。地方分権との観点とも絡み、産経抄が主張されているように多様なる教育機関の存在という柔軟性を求めたい。

仮に多様な教育機関を残すとしても、助成金・補助金等の配分方法によって、「こども園」でなければ、存続出来なくなる締め付けは避けてほしく思う。

保育所関係の方で、「10時間を超える預かり保育は、小学校入学前の子供にとって好ましいものではない」との見解が多いことも、ここに付記し、長期間の預かりの環境の中で頑張っておられる方に、敬意を表します。


以上長く記しましたが、子供の立場から、どういう環境・教育が幼児期に大切かという観点も含めた検討を強く希望します。